とことはに 吹く夕暮れの 風なれど 秋立つ日こそ すずしかりけれ
天の川 あふせ程なき たなばたに かへらぬいろの 衣かさばや
ひまもなく 真萩しげれる 秋の野は みちゆきずりも うれしかりけり
ゆきてみむ むかひの野辺の をみなへし ひとえも折らじ はなのさかりは
秋風に はらむ芒の ある野辺は うつしの露や 色にまがへる
秋風に なびくほどなき 刈萱は 下葉を上に 吹き乱るかな
秋は来て まだおもなれぬ 藤袴 野ごとに見れば ほころびにけり
秋来ても まだ穂にいでぬ 荻の葉は 風につけてぞ そよと告げける
くもゐより おのが名を呼ぶ 雁がねは いづこをさして なきわたるらむ
千載集・秋
そまかたに 道やまどへる さを鹿の つまとふこゑの しげくもあるかな
山隠れ 風にしらすな 白露の 玉貫きかくる 篠のを芒
麓をば 宇治の川霧 たちこめて 雲居に見ゆる 朝日山かな
あしかきの すゑより見えし 朝顔は おもかげさらぬ 花にぞありける
逢坂の 関路にけふや 秋の田の ほさかの駒を つむつむとひく
山の端を よこぎる雲の 絶え間より まちいづる月の めづらしきかな
千載集・秋
こひつつや 妹が打つらむ 唐衣 砧の音の そらになるまで
萩の枝の 下葉をやどに する虫は うらがれてゆく 秋やこひしき
しめのうちに 八重咲く菊の 朝ごとに 露こそ花の 上着なりけれ
しぐれの雨 間なくし降れば 駿河なる しづはた山に 錦おりかく
けふのみと 秋をみるこそ 悲しけれ 山の木の葉の 散るにつけても