けふよりは 心さへこそ 涼しけれ うすきにかふる 花の袂は
袖たれて をれども濡れぬ 白波は 卯の花咲ける 垣根なりけり
神山の けふのしるしの あふひ草 こころにかくる かざしなりけり
われもさは 入りやしなまし ほととぎす やまぢにかへる ひとこゑにより
あやめ草 淀野に生ふる ものなれば 根ながら人は 引くにやあるらむ
いそぎとれ いまは早苗も おひつらむ 田子のもすそは あさしめるとも
さつき山 みねたつ鹿も こころせよ ともしのせなも 乱れいるなり
旅人の ま菅の笠や 朽ちぬらむ 黒髪山の 五月雨のころ
やどごとに 花たちばなぞ にほひける ひと木がすゑに 風は吹けども
蚊遣火の したに燃ゆれば あぢきなく むかひの里を ふすぶるになる
池水に 浮かぶ蓮の 上にこそ 人にしられぬ 玉はなしけれ
夏まちて いだす氷室は いにし年 まかせし水の こほるなりけり
水無月に いはもる清水 むすばずは 扇の風を 忘れましやは
川の瀬に 夏越しの祓へ するけふや 沢辺の神も こころよすらむ