あかつきの 時つくるなり にはとりの 声うちかはし 羽根をならべて
潮風に 緑の色は まされども うらさびにけり 住吉の松
呉竹の 色も変はらで 瑞垣の 久しき世より 緑なるかな
佐保姫の 遊ぶところか 奥山の あをねが嶺の 苔の狭莚
鶴の子の すまふ入江に あさたてば あま曇りする ここちこそすれ
続後撰集・雑歌
神さぶる 葛城山の 高ければ 朝ゐる雲の 晴るる間ぞなき
みなわ巻き とこなめ走る あなし川 ひまこそなけれ 波のしらゆふ
霜枯れの 野原の浅茅 結びおかむ またかへりこむ 道のしるべに
急ぐ道 かたく関守 守るとも われはかりをば めざしたぐへよ
板倉の 橋をばたれも 渡れども いなおほせ鳥ぞ 過ぎがてにする
風早の 沖つ潮騒 高くとも いだてに走れ 武庫の浦まで
みやこ出でて 幾日といふに まとりすむ うなての森に こよひ来ぬらむ
千載集・離別
かへりこむ こともさだめぬ 別れ路は みやこのてぶり 思ひいだせよ
霜枯れの 草のとざしの あだなれば しづの竹垣 風も止まらず
にひばりの そしろのかど田 植ゑしより 秋はねやこそ さだめざりけれ
斧の柄の 朽ちしところの 山人の はかなきよには 何かへりけむ
とほ妻は 野辺の初草 かりそめの 夢のうちにも 逢ふぞうれしき
うつせみの はかなき世とは 知りながら はちすを願ふ 人は稀なり
何をして おきなさびけむ 朝毎に 鏡の影を かつ咎めつつ
続後撰集・賀君が代の 数に比べば 何ならし 千尋の浜の 真砂なりとも