山里の竹よりほかの我が友はよる鳴く鹿の庭のくさぶし
露霜のおくての山田吹く風のもよほす方に衣打つなり
乱れおつる萩のまがきの下露に涙色あるまつむしのこゑ
山河のしぐれてはるるもみぢ葉にをられぬ水も色まさりつつ
山めぐる時雨の奥のもみぢ葉のいくちしほとか焦がれ出づらむ
秋風のうら葉にためぬ白露のしをらでひたすあさがほのはな
大井川ゐせきの浪の花のいろをうつろひ捨つる岸の白菊
また人のとはぬもうれし草木だになれては惜しき秋のなごりを
けふそへにさこそ時雨のおとづれて神無月とはひとに知らるる
朝霜のをかの紅葉はおもひ知れおのが下なる苔のこころを
まきのやに霰の音もとだえつつ風のゆくへになびくむらくも
むかしへやなに山姫の布さらす跡ふりまがへつもる初雪
わが宿は今日こむ人に忘られぬ雪のこころに庭をまかせて
住吉の松やいづこと降る雪にながめもしらぬとほつふなびと
蘆の葉も下をれはてて三島江の入江の月にかげもさはらず
鳰のうみや月待つ浦の小夜千鳥いづれの島をさして鳴くらむ
おきとめず松をあらしの拂ふ夜は鴨の青羽の霜ぞかさなる
今いくか打ち出づる波の初花も谷の氷の下に待つらむ