和歌と俳句

藤原俊成

月よりも 秋は空こそ あはれなれ 晴れずはすまむ かひなからまし

月の秋 あまた経ぬれど おもほえず 今宵ばかりの 空のけしきは

いかにして そでにひかりの 宿るらん 雲井の月は 隔ててし身を

秋の またもあひ見む わが心 つくしなはてそ 更科の山

月も日も 別れぬものを 秋来れば 夜をながしとも 誰さだめけむ

夢さめむ 後の世までの 思ひ出に 語るばかりも 澄める月かな

この世には みるべくもあらぬ 光かな 月も佛の ちかひならずば

新勅撰集
衣うつ ひびきは月の 何なれや 冴えゆくままに 澄みのぼるらむ

山川の 水の水上 たづねきて 星かとぞみる しらぎくの花

元結の 霜置きそへて ゆく秋は つらきものから 惜しくもあるかな

いつしかと のしるしに 立田川 紅葉とぢまぜ うす氷せり

まばらなる 槇の板屋に をとはして 洩らぬ時雨は 木の葉なりけり

風さやぐ よの寝覚の さびしきは はだれ霜ふり 鶴さはに鳴く

新勅撰集
月清み 千鳥鳴くなり 沖つ風 吹飯の浦の あけがたの空

千載集
月冴ゆる 氷のうへに あられ降り 心くだくる 玉川のさと

空にみつ 愁の雲の 重なりて 冬の雪とも 積るなりけり

雪ふれば 道絶えにけり 吉野山 花をば人の たづねしものを

冬の夜の 雪と月とを 見るほどに 花のときさへ 面影ぞたつ

小野山や 焼く炭竈に こりぞつむ つま木とともに 積る年かな

ゆく年を 惜しめば身には 積るかと 思ひいれてや 今日を過ぎまし