思ふより やがて心ぞ うつりぬる 恋は色なる ものにぞありける
新勅撰集・恋
散らばちれ 岩瀬のもりの 木枯しに つたへやせまし おもうことのは
とし経れど 人の心は つれなくて 涙は色の かはりぬるかな
あぢきなや 思へばつらき 契りかな 恋はこの世に もゆるのみかは
ふかくしも 思はぬほどの おもひだに 煙の底と なるなるものを
たのめずは なかなか世にも ながらへて 久しくものは 思はざらまし
千載集
おく山の 岩垣沼の うきぬなは 深き恋路に なにみだれけむ
人こころ 浮田のもりに 引くしめの かくてややがて やまむとすらむ
新勅撰集・恋
涙河 袖のたわみに 沸き返り やるかたもなき ものをこそ思へ
続後撰集・恋
露むすぶ 真野のこすげの 菅枕 かはしてもなぞ 袖ぬらすらむ
千載集
恋をのみ 飾磨の市に 立つ民の たへぬ思ひに 身をやかへてむ
いかにせむ 蜑のさかてを 打ち返し うらみてもなほ あかずもあるかな
忘草 つみにこしかど 住吉の 岸にしもこそ 袖はぬれけれ
新古今集
思ひわび 見しおもかげは さてをきて 恋せざりけむ おりぞ恋しき
いかばかり われを思はぬ わが心 わがためつらき 人をこふらむ
続後撰集・恋
人をのみ なぞ恨みけむ 憂きをなほ こふる心も つれなかりけり
恋しきに 憂きもつらきも 忘られて 心なき身に なりにけるかな
いとふべき こは幻の 世の中を あなあさましの 恋のすさびや
千載集
しきしのぶ 床だにたえぬ 涙にも 恋は朽ちせぬ ものにぞありける
はじめなき 昔思ふぞ あはれなる いつより恋に むすぼほれけむ