和歌と俳句

新古今和歌集

恋五

八代女王
みそぎするならの小川の川風に祈りぞわたる下に絶えじと

清原深養父
うらみつつ寝る夜の袖の乾かぬは枕のしたに潮や満つらむ

山口女王
あしべより満ち来る汐のいやましに思ふか君が忘れかねつる

山口女王
鹽竈のまへに浮きたる浮島のうきておもひのある世なりけり

赤染衛門
いかに寝て見えしなるらむうたた寝の夢より後はものをこそ思へ

参議
うちとけて寝ぬものゆゑに夢を見て物思ひまさる頃にもあるかな

伊勢
春の夜の夢にありつと見えつれば思ひ絶えにし人ぞ待たるる

盛明親王
春の夜の夢のしるしはつらくとも見しばかりだにあらば頼まむ

女御徽子女王
ぬる夢にうつつの憂さも忘られて思ひ慰むほどぞはかなき

能宣朝臣
かくばかり寝で明かしつる春の夜をいかに見えつる夢にかあるけむ

寂蓮法師
涙川身も浮きぬべき寝覚かなはかなき夢のなごろばかりに

藤原家隆朝臣
逢ふと見てことぞともなく明けぬなりはかなの夢の忘れ形見や

藤原基俊
ゆか近しあなかま夜半のきりぎりす夢にも人の見えもこそすれ

皇太后宮大夫俊成
あはれなりうたたねにのみ見し夢の長きおもひにむすぼほれなむ

定家朝臣
かきやりしその黒髪のすぢごとにうち臥すほどは面影ぞたつ

皇太后宮大夫俊成女
夢ぞとよ見し面影も契りしも忘れずながらうつつならねば

式子内親王
はかなくぞ知らぬ命を歎きこしわがかね言のかかりなる世に


過ぎにける世々のちぎりも忘られで厭ふ憂き身のはてぞはかなき

皇太后宮大夫俊成
思ひわび見し面影はさておきて恋せざりけむをりぞこひしき

相模
流れ出でむうき名にしばし淀むかな求めぬ袖の淵はあれども