和歌と俳句

村上鬼城

秋空や日落ちて高き山二つ

秋空や逆立したるはね釣瓶

秋雲や見上げて晴るる棚畑

谷の日のどこからさすや秋の山

秋山や影して飛べる山鴉

山畑や茄子笑み割るる秋の風

秋風に忘勿草の枯れにけり

街道やはてなく見えて秋の風

灯を消して夜を深うしぬ秋の声

秋の暮水のやうなる酒二合

門口に油掃除や秋の暮

御仏のお顔のしみや秋の雨

秋雨や柄杓沈んで草清水

秋雨や石にはえたる錨草

新米を食うて養ふ和魂かな

たんと食うて大きうなれや今年米

稲掛けて菊隠れたる垣根かな

稲刈りて草のとなりにけり

よろよろと螽吹かれぬ実なし草

稲雀降りんとするや大うねり

谷底へ案山子を飛ばす嵐かな

山かげの田に弓勢の案山子かな

里犬を追出してゐる鳴子かな