和歌と俳句

村上鬼城

朝寒や白き頭の御堂守

朝寒や馬のいやがる渡舟

壁土を鼠食みこぼす夜寒かな

提灯で泥足洗ふ夜寒かな

身に入むや白髪かけたる杉の風

草庵に二人法師やむかご飯

零余子こぼれて鶏肥えぬ草の宿

眼前に芭蕉破るる風の秋

蓮の実のたがひ違ひに飛びにけり

樫の実の落ちて駆け寄る鶏三羽

小さなる乾しにけり山の宿

鼠ゐて棗を落す草の宿

新しき箕して乾したる棗かな

藪寺の大門晴るる刈田かな

柚子味噌して膳賑はしや草の宿

柚子味噌に一汁一菜の掟かな

紅葉すれば西日の家も好もしき

紅葉してしばし日の照る谷間かな

目ざましき柿に紅葉の草家かな

石山に四五本漆紅葉かな

土くれに二葉ながらの紅葉かな

柳ちるや板塀かけて角屋敷

行秋や蠅に噛み付く蟻の牙

行秋や糸に吊るして唐辛子

女房をたよりに老ゆや暮の秋