和歌と俳句

村上鬼城

蜂の巣のこはれて落ちぬ今朝の冬

猫の眼の螽に早しけさの冬

炉開や藪に伐り取る蔓もどき

草の戸や土間も灯りて亥の子の日

お机に金襴かけて十夜かな

人の中を晏子が御者の熊手かな

芭蕉忌やとはに淋しき古俳諧

袴着や老の一子の杖柱

袴着や将種嬉しき廣額

帯解や立ち居つさする母の親

麦蒔や土くれ燃してあたたまる

麦蒔いて一草もなき野面かな

麦蒔や西日に白き頬被

山茶花や二枚ひろげて芋筵

屋根ふいて柊の花に住みにけり

大根に蓑着せて寐ぬ霜夜かな

大根を隣の壁にかけにけり

大根引馬おとなしく立眠り

小さうもならでありけり茎の石

老が手に抱きあげけり茎の石

浅漬や糠手にあげる額髪

鷹老いてあはれ烏と飼はれけり

小春日や石を噛みゐる赤蜻蛉

痩馬にあはれ灸や小六月

小春日や烏つないで飼へる家