和歌と俳句

村上鬼城

春待や草の垣結ふ縄二束

春待や峰の御坊の畳替

雀来て歩いてゐけり餅筵

いささかの金欲しがりぬ年の暮

寺灯りて死ぬる人あり大三十日

いささかの借もをかしや大三十日

俳諧の帳面閉ぢよ除夜の鐘

除夜の鐘撞き出づる東寺西寺かな

よく光る高嶺の星や寒の入り

美食して身をいとへとや寒の内

大寒や下仁田の里の根深汁

大寒やあぶりて食ふ酒の粕

棚畑のすみずみ冴えて見えにけり

遠山の雪に飛びけり烏二羽

屋根の雀が食うて居りにけり

道あるにの中行く童かな

斧揮つて氷を砕く水車かな

石段の氷を登るお山かな

煮凝にうつりて鬢の霜も見ゆ

寒行の提灯ゆゆし誕生寺

枯枝に足ふみかへぬ寒雀

寒鮒を突いてひねもす波の上