和歌と俳句

村上鬼城

禰宜達の足袋だぶだぶとはきにけり

うとうとと生死の外や日向ぼこ

北風に鼻づら強き雄姿かな

北風にうなじ伏せたる荷牛かな

いたし日 々の勤めの老仲間

大寺や霜除しつる芭蕉林

大木の表ぬれけり冬の雨

冬雨や万竿青き竹の庵

樫の木に雀這入る かな

水涸れて狼渡る月夜かな

冬川に青々見ゆる水藻かな

舟道の深く澄みけり冬の川

あはれさや犬鳴き歩く火事の中

提灯で戸棚をさがす冬夜かな

若うどや大鮫屠る宵の冬

猫のゐて両眼炉の如し冬の月

冬の月深うさしこむ山社

柚子湯や日がさしこんでだぶりだぶり

蕪村忌やさみしう挿して正木の実

門を出て師走の人に交りけり

水晶宮裏師走の蘭の咲きにけり

手桶提げてこまごまと買ふや年の市

煤掃いて蛇渡る梁をはらひけり

煤掃いて卑しからざる調度かな