和歌と俳句

村上鬼城

嬉しさや大豆小豆の庭の秋

秋立つと出て見る門やうすら闇

親よりも白き羊や今朝の秋

今朝秋や見入る鏡に親の顔

大空をあふちて桐の一葉かな

桐の葉のうら返りして落ちにけり

七夕や笹の葉かげの隠れ星

雨降りて願いの糸のあはれなり

小舟して湖心に出でぬ天の川

迎火や年 々焚いて石割るる

迎火や恋しき親の顔知らず

魂棚の見えて淋しき寐覚かな

燈籠提げて木の間の道の七曲り

燈籠のさみしく灯る真昼かな

走馬燈消えてしばらく廻りけり

学問を憎んで踊る老子の徒

送火や僧もまゐらず草の宿

送火や迎火たきし石の上

水の上火竜の走る花火かな

飄々と西へ吹かるる花火かな

に黄葉村舎となりにけり

玄関の下駄に日の照る残暑かな

新涼や二つ小さき南瓜の実