尻もちをつきてよろこぶしはす哉 季吟
僧ひとり師走の野道梅の花 来山
月白き師走は子路が寝覚哉 芭蕉
たび寐よし宿は師走の夕月夜 芭蕉
何に此師走の市にゆくからす 芭蕉
かくれけり師走の海のかいつぶり 芭蕉
中々に心おかしき臘月哉 芭蕉
物ぬひや夢たたみこむ師走の夜 千代女
梅さげた我に師走の人通り 蕪村
炭売に日のくれかゝる師走哉 蕪村
うぐひすの啼や師走の羅生門 蕪村
水仙にたまる師走の埃かな 几董
けろけろと師走月よの榎哉 一茶
いそがしく時計の動く師走哉 子規
板橋へ荷馬のつづく師走哉 子規
市中は人様々の師走哉 漱石
納豆を檀家へ配る師走哉 漱石
茶の匂ふ枕も出来て師走かな 碧梧桐
橋開きありて師走の花火かな 碧梧桐
赤々と酒場ぬらるる師走かな 普羅
削げ山も師走月夜のものゝうち 石鼎
奥荒れの猿を見来しと師走人 石鼎
日のさせば巌に猿集る師走かな 石鼎
晶子
ばらの鉢かたぶきしまま夜の明けし師走の冬のあさましきかな
高楼の師走の灯枯枝のゆらぎ 碧梧桐
鼻づらを曳く馬の師走の灯の中に 碧梧桐
門を出て師走の人に交りけり 鬼城
植木屋がけふから這入る師走かな 万太郎
亀井戸にある日用ある師走かな 万太郎
強い文句が書けて我なれば師走 碧梧桐
弟を裏切る兄それが私である師走 碧梧桐
烏瓜届けずじまひ師走かな 龍之介
影多し師走河原の砂の隈 龍之介
浅草の塔のすがたも師走かな 万太郎
日暮里へ師走のみちのつゞきけり 万太郎
晶子
墨の色霧降るたびに東京へ沁み入る如き師走となりぬ
船人は碇綱買ふ師走かな 碧梧桐
ばらくづれたり師走の畳の上 亜浪