和歌と俳句

電話口咳して兄の出てきたり 立子

咳の人と向ひあはせしバス込める 立子

咳の子のなぞなぞあそびきりもなや 汀女

咳聞え目覚めたる目をつむり居る 汀女

大木の中咳きながら抜けて行く 茅舎

咳きながらポストへ今日も林行く 茅舎

五重塔の下に来りて咳き入りぬ 茅舎

わが咳や塔の五重をとびこゆる 茅舎

寒林を咳へうへうとかけめぐる 茅舎

咳止めば我ぬけがらのごとくなり 茅舎

咳き込めば谺返しや杉襖 茅舎

火の玉の如くに咳きて隠れ栖む 茅舎

咳我をはなれて森をかけめぐる 茅舎

我が咳に伽藍の扇垂木撥ね 茅舎

昇天の竜の如くに咳く時に 茅舎

竜の如く咳飛び去りて我悲し 茅舎

咳き込めば夜半の松籟又乱れ 茅舎

咳止んでわれ洞然とありにけり 茅舎

咳かすかかすか喀血とくとくと 茅舎

そと咳くも且つ脱落す身の組織 茅舎

金柑は咳の妙薬とて甘く 茅舎

普門品よみをれば咳いでざりき 茅舎

咳きて飛石ひろひ来つつあり 槐太

女人咳きわれ咳きつれてゆかりなし 槐太

咳をして言ひ途切れたるまゝの事 綾子

咳すれば身の在り所虚空の中 綾子

咳き臥すや女の膝の聳えをり 波郷

咳かじとす肋無き胸抱き抑へ 波郷

咳き咳けば胸中の球悲しぶも 波郷

咳の底楸邨は旅に在りと思ふ 波郷

病家族咳きあふこゑは屋に満つも 波郷

咳つづく窓の月はもくつがへり 爽雨

咳き入りし泪のままに子が遊ぶ 汀女

咳の子のうるみし瞳我を見る 立子