和歌と俳句

中村汀女

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しづか愁なしとはいへざるも

湯豆腐や姿見せねど行きとどき

冬木立つ暮しの裏のさびしさに

厳寒や一と日の手順あやまたず

抱く珠の貝のあはれを聞く冬夜

人の焚く落葉のかさを見て過ぎし

凡そ遠き日の毛布かな父恋し

目つむればまぶたにぬくき冬日かな

寒玉子ともに大都の端に住み

冬青空かへりみるべきことのみに

冬灯身に引き寄せて明るさよ

ストーブに対し己に対しけり

咳き入りし泪のままに子が遊ぶ

ことごとに人待つ心寒椿

厳寒や心きまればきびきびと

曳船の男突つ立ち冬の川

沈みわれも何かを失ひし

寒の夜の一間ばかりは明うせよ

寒行の早き歩みに町残り

山茶花の大輪旦暮おだやかに

障子閉めて落葉しづかに終る日ぞ

八つ手咲きつづく日和の母のもと

初雪やみるみる母の菜園に

寒夕焼話いよいよ交じはらず

つらら心のひまの夕明り