雪しづか愁なしとはいへざるも
湯豆腐や姿見せねど行きとどき
冬木立つ暮しの裏のさびしさに
厳寒や一と日の手順あやまたず
抱く珠の貝のあはれを聞く冬夜
人の焚く落葉のかさを見て過ぎし
凡そ遠き日の毛布かな父恋し
目つむればまぶたにぬくき冬日かな
寒玉子ともに大都の端に住み
冬青空かへりみるべきことのみに
冬灯身に引き寄せて明るさよ
ストーブに対し己に対しけり
咳き入りし泪のままに子が遊ぶ
ことごとに人待つ心寒椿
厳寒や心きまればきびきびと
曳船の男突つ立ち冬の川
鳰沈みわれも何かを失ひし
寒の夜の一間ばかりは明うせよ
寒行の早き歩みに町残り
山茶花の大輪旦暮おだやかに
障子閉めて落葉しづかに終る日ぞ
八つ手咲きつづく日和の母のもと
初雪やみるみる母の菜園に
寒夕焼話いよいよ交じはらず
軒つらら心のひまの夕明り