和歌と俳句

中村汀女

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さし寄せし暗き鏡に息白し

枯蔓の抱きたる實を失く居り

枯蔓のふときところで切れてなし

靴紐をむすぶ間も来る雪つぶて

雪降りし日も幾度よ青木の實

足音のいつかひとつにの道

牡蠣むきの殻投げおとす音ばかり

上の子やみづからかくる吸入器

歳晩の人の流れに洗ひ髪

山の土麦の芽出でて畑となる

馬が待つの積荷のまだなかば

ひとりでに子は起き橇は起こさるる

信号機青のまにまにの貨車

夕焼けてなほそだつなる氷柱かな

雪嶺に汽車あらはれてやや久し

雪掻きし市内に来り橇難渋

の子のなぞなぞあそびきりもなや

書いて見す数字が下手や日向ぼこ

ここのまた吾子の鉛筆日脚伸ぶ

遮断機のあがれば子供夕時雨

時雨るるや水をゆたかに井戸ポンプ

子等のものからりと乾き草枯るる

風邪の子や団栗胡桃抽斗に

道暮れぬ焚火明りにあひしより

寒鮒の跳ねてきまりし棹秤