和歌と俳句

風邪

風邪ひかぬまじなひの句を返しかな 碧梧桐

風邪ひき添へし硝子戸の星空 碧梧桐

おしおして遂にふせりぬ風邪の妻 虚子

風邪の子の枕辺にゐてものがたり 草城

風邪の子や眉にのび来しひたひ髪 久女

瞳うるみて朱唇つややか風邪に臥す 久女

熊の子の如く着せたる風邪かな 久女

風邪引きや髯蓬々の山男 橙黄子

古妻の引き添へ風邪や又宵寝 橙黄子

あけくれに富貴を夢む風邪哉 普羅

よき衣をたたむや袖の風邪薬 普羅

風邪の子のほつれ毛かぶり負はれけり 爽雨

つれづれに衿かけ代へし風邪ごもり 立子

二三枚風邪の欠勤届かな 草城

わがままのかぎりをつくし風邪の妹 草城

草枕たまの宵寝に風邪薬 橙黄子

母見んと夢たのしみぬ風邪の昼 かな女

坂をゆき風邪かすかなり昼ふかし 波郷

風邪ごころ坂は電車もしづかなる 波郷

めつぶれる瞼や風邪のタイピスト 誓子

樺色の頬紅風邪のタイピスト 誓子

香料のえならぬ風邪のタイピスト 誓子

とつぐとき過ぎつつ風邪のタイピスト 誓子

さげ髪をして床にあり風邪の妻 波津女

風邪の妻うすきけはひをして居りぬ 波津女

ゑがかざる眉のはかなき風邪かな 草城

風邪の妻男枕をしてをりぬ 波津女

夜となりて風邪の床とも見えぬなり 波津女

手鏡を床にかくして風邪の妻 波津女

夜の臥床風邪の臥床と並びけり 波津女

妻が手のつめたかりけり風邪顔 月二郎

風邪の子に日々の外出の土産もの 立子

檸檬切りにほひはしれば風邪去りぬ 悌二郎

風邪床にぬくもりにける指輪かな 汀女

影法師髪みだれたる風邪気かな 汀女

書をくりて風邪の憂鬱ひとり黙す 多佳子

坂の下まで来て風邪の熱きざす 槐太

おもふこと遠くもなりぬ風邪に寝て 亞浪

風邪よごれ見られたくなしかくれ病む 花蓑

風邪の妻きげんつくりてあはれなり 風生

夜半の燈の我に親しき風邪かな みどり女

玄関に厨にさとき風邪の耳 みどり女

枕辺に財布よせたる風邪かな 月二郎

風邪の夢髣髴として冥土あり 月二郎

熊の子の如く着せたる風邪かな 久女

風邪人に渺々と澄む日空かな 麦南