朧夜の物言ふ如き星のあり
流し雛堰落つるとき立ちにけり
花の幕うしろ向なる鳰の池
大いなるもくろみありて朝寝かな
梅に浮く雲に心のなしとせず
銀婚の式はせずとも軒の梅
廃りたる襤褸も張るなり梅の花
桃挿すやこぼるゝ蕾惜みなし
花の空四方にひろしや御苑内
汐煙ながれて涼し伊良古岬
すずしさや鯛もかじきも網の中
夏網の相模の海の鱸かな
引いてゆく長きひゞきや五月波
田植時鳴海の里は絞り干す
緑蔭や白鳥遠く去りてあり
夕顔に庭木がくれの月遅し
楽しみの一つに朝のトマトもぐ
月の前蜻蛉すぎてまだ暮れず
灯を入れて夕焼したる切子かな
静かにもとろりと灯る切子かな
連れ立ちて話もなしや虫時雨
木をゆするのが見えてをり栗の山
万年青の実楽しむとなく楽しめる
雪嶺のうつりてひろき水田かな
どの家も皆仕合せや干布団
老夫婦鼻つき合せ煤ごもり
来る客もなくて餅切などしつゝ
けちけちと暮して寒の餅もつく
ひるがへるより木がくれし鶲かな
うす月の見えてありしが石蕗の花
それ以来誰にも逢はず春浅し
橋の欄譲りもたれて春の水
春の水渦のとけては顔になる
翅立てゝ鴎の乗りし春の浪
囀のこぼれて水にうつりけり
奥深く梅の渓あり梅林
聳え立つ山が閊えて梅の軒
物の芽にかゞんで旅のあと休
千曲川心あてなる桑のみち
明け易き一夜一夜の茄子漬島々の一つの島の宿涼し
干網に晩涼の日のかゝりけり
くらがりにかくるゝ如く門涼み
たそがれて大きく円く白牡丹
人妻のあだに美し菖蒲園
我名呼ぶ如き鳥あり夏木立
竹の葉の散るを間遠に思ひけり
夕顔に月の翳りて更けにけり
何故の妹が涙や秋の風
萩刈つて多少の惜みなしとせず
生意気にくやしがる子や菌狩
わがとりし菌いちいち覚えあり
蜻蛉の空暮れて来し木の間かな
闇汁や遊びずきなるこのまどゐ
闇汁や何の会にも不参せず
炉辺の婆々おつゝけ爺が帰るといふ
煖房や八階にして窓に不二
風邪よごれ見られたくなしかくれ病む
著ぶくれて庭木くゞるもぎこちなく
逆立ちをする鴛鴦を見る木の間かな
水ひろき方へと鴛鴦の進みけり
山茶花や紅斑の少しさみしくも
枯木立ありその上に八ヶ岳