和歌と俳句

夏木立

雨霽れや夏木おもての雲がかり 蛇笏

ゆくほどに巌容変る夏木立 石鼎

下に立ち見上げし杉や夏木立 立子

東京へこの道つづく夏木立 万太郎

寺の鐘夏木立より響きくる 立子

我が前に夏木夏草動き来る 虚子

老い人や夏木見上げてやすらかに 虚子

我名呼ぶ如き鳥あり夏木立 花蓑

岩の上の大夏木の根八方に 虚子

径芝の露とろとろと夏木立 月二郎

徳川の三百年の夏木あり 虚子

剃りあとの青き夫なり夏木立 信子

棟梁の材ばかりなり夏木立 虚子

夏木あり之を頼りに葭簀茶屋 虚子

顧みる七十年の夏木立 虚子

夏木より牛つながれし綱張りて 杞陽

夏木の根一トまはりして牛の綱 杞陽

ながめゐし夏木の下に墓の見え 杞陽

雨浸みて巌の如き大夏木 虚子

惨として日をとどめたる大夏木 虚子

大夏木日を遮りて余りある 虚子

十人をかくす夏木と見上げたり 虚子

石山の面に夏木の枝揺る影 草田男

パイプの灰叩く他郷の一夏木 不死男

雨戸開け夏木の香り面打ち 虚子

飽食のからす高枝に夏木立 蛇笏

下京や卵茹だれる夏木立 源義

信濃路は夏木にまじる蔵白く 源義

湖を断つ夏木の幹ただ太し 虚子

古道に出たり左右の夏木立 虚子

夏木この家に照りこぞりては去り難く 龍太

大岩に根を下したる夏木かな 虚子

車降り我と夏木と佇みぬ 虚子

父のごと母のごと大夏木 風生

山深く夏木仰げば葉落ちくる 林火