和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

短夜の日本の幅を日本海へ

夜をこえし誘蛾燈のみ濤の音

誘蛾燈畦みなうねり裏日本

荒海や島なく日の辺朝焼けす

朝焼けやささべりの漁家いまだ醒めず

荒海や松は肉削げ草は濃く

花柘榴くちびるなめて嫗どち

また巷路つばくら低きとまりやう

旅の身は電柱に倚り鯉幟

犀川を見送り様に梅雨漏れ日

梢ごし旅に見下ろす運動会

家ふかく昼の一燭柏餅

菖蒲葺く日やここの温泉はこの熱さ

冬燕湖とぶことをあきらめず

北陸の星なきこよひ灯の金魚

友とあり五日六日の菖蒲湯

青蘆が松の枯枝に丈とどく

青蘆の髪のみだれに日の光

夏蝶ひたと羽伏せて砂の安宅道

沖は梅雨雲歴史の幕のとざされて

柿落花石山への道すでにしろ

石山仰ぐ白き夏日の路溜り

石山の面に夏木の枝揺る影

芭蕉の旅路森へ抜けけん巌すずし

石山裾むかしを繋ぎ花菖蒲