和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

炎天悲報同じく瞳黒き戦禍の民

桃の実枝に尾長鳥俯仰や誕生日

生きてゐる妻と枝頭に灼ける桃と

汗拭きてあげる面を日の待てる

向日葵も天へこぼるる花粉ならず

見詰めあひ尾を揺りあひて鵙親子

炎天をすすみがたなの昼の月

空で波うつ清水や水瓶仰ぎ飲む

乳房ある仏像青葉の墓の前

宮も寺も遠き裏町青銀杏

厚餡割ればシクと音して雲の峰

詩三千汗くさく薬くさく酒くさし

円き泉二十年来一宣言

天の川此門過ぎて森の声へ

聖母子像動く時計のありて涼し

麺麭とトマト、バッハの曲からペトロの声

夕涼に農婦農衣のエモン抜く

をみな等も涼しきときは遠を見る

夏ボーナス日本の病ふかきとき

老の賜ひし杖睡蓮の花へ曳く

正午なる夕立白し真直ぐに

炎天に名所写真師半平和

灼ける坂家鴨のぼり来はかどらず

蜩の鳴く頃客あり淋しからず