炎天悲報同じく瞳黒き戦禍の民
桃の実枝に尾長鳥俯仰や誕生日
生きてゐる妻と枝頭に灼ける桃と
汗拭きてあげる面を日の待てる
向日葵も天へこぼるる花粉ならず
見詰めあひ尾を揺りあひて鵙親子
炎天をすすみがたなの昼の月
空で波うつ清水や水瓶仰ぎ飲む
乳房ある仏像青葉の墓の前
宮も寺も遠き裏町青銀杏
厚餡割ればシクと音して雲の峰
詩三千汗くさく薬くさく酒くさし
円き泉二十年来一宣言
天の川此門過ぎて森の声へ
聖母子像動く時計のありて涼し
麺麭とトマト、バッハの曲からペトロの声
夕涼に農婦農衣のエモン抜く
をみな等も涼しきときは遠を見る
夏ボーナス日本の病ふかきとき
老の賜ひし杖睡蓮の花へ曳く
正午なる夕立白し真直ぐに
炎天に名所写真師半平和
灼ける坂家鴨のぼり来はかどらず
蜩の鳴く頃客あり淋しからず