和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

五十路またよきぞと唱へ宵踊り

いつせいに手あげて踊りの身が細る

踊るらめ女泣かせぬ世の来るまで

広きへ行かん鉢窪ふかき麦藁帽

一隅の夏釣人のまばたきなど

赤児さめし右車窓より夏暁くる

光太郎住む山かけて芒出穂

晩夏シグナル高し渋民村低し

野に咲けど渋民村辺真赤な百合

二分停車好摩ケ原は木露降る

みちのくの一宿晩夏の合歓の辺に

象潟のはせをの合歓も晩夏の合歓

雨蛙緯度北よりの空へ鳴く

まこと裸の声みちのくの雨蛙

道と渓流蝉声も亦蜿蜒と

岩々すずし水の本道間道奔せ

屈竟の橡の実つかむや水去来

底沙すずし潜ぐれど見ゆる鳰一つ

澄む風にゆかりのなき葉月

この湖に想羽冷えて夏の鴛鴦

夏の鴛鴦寂びつかれたる木が倒れ

倒れ木の夏鷹の尾の湖に触れ

鴛鴦の湖二つづつ出て夏星満つ

櫂えお湖舟に措きすつる音天の川

湖上銀河箒の影のある障子

残暑の墓老男老女遠拝み

きりぎりす同音重ね桂月調