和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

四季載せて今冬載せて海はあり

海辺の墓地冬砂深しかりそめに

白沙の青松冴え冴え残るよ艫の別れ

冬の白壁雀尾出せばその尾の影

雨の日は昼の灯多し蜜柑村

茶の花や嘴黄なる白家鴨

黒き小牛に新藁負はせうつりよし

女学校冬晒落書「I like him」

冬雨の祷りて叶ひし岩洗ふ

潮に泛く蜜柑や雨の白き船

花崗岩冬波洗ひ雨そそぎ

二つの唐傘冬の松から青き雨

束ぬ寄りあひ易き花にして

肩ごしに見下ろす乳房岩の春

花蘆辺朝日のごとき母と居て

遠雲雀春の大地は縦長し

もぬけ倉小花いつぱい痩せ

倉壁高しかげろふ届かずあららかに

倉の内外土鼠むさべつ春の土

山桜とほす日ざしに笠脱がで

山桜あさくせはしく女の鍬

月と日と落葉松の芽に咽びあふ

蒲公英や一切事に斯く雲寄るな

永き日の餓ゑさへも生いくさすな

裸でうたふ子の列大人はいくさすな