和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

みな直立紅銀の糸新芒

汝等まろき脂ぎつたる空蝉よ

流水一途七色ひびきあひて

虹立てり病来るまで病まざるなり

虹明り杖で刈りたる花二三

渓流や蟇住む泥の座も一坪

銀河依然芽のまま萎えし病の芽

秋晴や故友の命の継穂われ

たはやすく薔薇のまみれし砂はたく

足袋越しに足打ちし水重かりし

回想自ら密度に誇り法師蝉

文字の上意味の上をば冬の蠅

家を追はれし長子氷りし鯛一尾

春を待てる汝が子の眼澄む見たまはずや

春落日添景もなく海に赤し

我が声は紙に記すのみ雉子の声

清水の声と妻には誘はるる

ここに又無事叫喚の行々子

鳰の仔や花藻の下辺餌に満つや

葛の葉の昼の裏見や親子牛

馬も牛も二重瞼に母の日ぞ

蓮に佇つや肋あらはの聖者ならで

上下の夜河原ほのと此所踊り

紅袂徒歩に石踏み踊るなり

行く水に横顔続けや踊の輪