みちのくの晩夏描くを旅人見る
夫が落す語を妻拾ひ夏野行く
西日の馬をしやくるな馬の首千切れる
津軽の西日ここ先途なき流行歌
野は林檎町はあかあか晩鴉に満つ
残光になほ舞ふ鳶や洗ひ馬
津軽人土切る音す昼の虫
梯子の裾に腰かけ仰ぐ旅の虹
青年は日向でいこふ道をしへ
道をしへ先達けふも下駄ばきに
昼の酔津軽の稲風稲ゆする
薊と小店太宰の故郷へ別れ道
太宰の通ひ路稲田の遠さ雲の丈
遠景消えて林檎の苑の中に泰し
遺影の頭僧より魁偉供華秋草
覇王樹立ち夕蟹走りわれ生れし
金剛茅舎朴散れば今も可哀さう
開くとき光りぬ冬の昼花火
藪の気を吸ひつつ背は日向ぼこ
雲の峰縦向きに魚ならべたり
雲台に三日月地上に何置かるる
雪虫や高さの重さに堪へ得ずに
冬日一輪をりをり光あらたにす