和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

虫眼鏡・磁石咲き吾子遊ぶ

春立つ夜あの世の友にも為事あれ

春疾風乙女の訪ふ声吹きさらはれ

青空に梅晴れて世事黄に濁る

産の日近し月が星消し青葉木兎

とまり啼く日輪の左右夏燕

軽き太陽玉解く芭蕉呱々の声

次第に一生懸命睡る赤児

赤児の欠伸蚊帳はヴェールのこまかさに

桜の実光は解かる赤児の眼

生れて十日生命が赤し風がまぶし

七夕や深夜の療衣あまた垂れ

地蔵の前鉢の孑孑生命千々

鶏声まちまち梅雨の午刻のみだれたる

濡れる蓋梅雨の釜焚く他人の母

蜩なき石童丸の泣く刻ぞ

呻吟の声夜の蜘蛛の糸一本

夏山深く老婆籠れど我母亡し

真意とは娑婆のはからひ露慈光

毛糸編む気力なし「原爆展見た」とのみ

父母の冬灯父母の居たしかめ寝る子あり

老眼鏡掛け初め武きの丈

聖夜とやヒロシマ環礁実験図

除夜の鐘眼前居る妻もう居ぬ母

吾子の手の指を没しぬ春の土