虫眼鏡・磁石梅咲き吾子遊ぶ
春立つ夜あの世の友にも為事あれ
春疾風乙女の訪ふ声吹きさらはれ
青空に梅晴れて世事黄に濁る
産の日近し月が星消し青葉木兎
とまり啼く日輪の左右夏燕
軽き太陽玉解く芭蕉呱々の声
次第に虹一生懸命睡る赤児
赤児の欠伸蚊帳はヴェールのこまかさに
桜の実光は解かる赤児の眼
生れて十日生命が赤し風がまぶし
七夕や深夜の療衣あまた垂れ
地蔵の前鉢の孑孑生命千々
鶏声まちまち梅雨の午刻のみだれたる
濡れる蓋梅雨の釜焚く他人の母
蜩なき石童丸の泣く刻ぞ
呻吟の声夜の蜘蛛の糸一本
夏山深く老婆籠れど我母亡し
真意とは娑婆のはからひ露慈光
毛糸編む気力なし「原爆展見た」とのみ
父母の冬灯父母の居たしかめ寝る子あり
老眼鏡掛け初め武き霜の丈
聖夜とやヒロシマ環礁実験図
除夜の鐘眼前居る妻もう居ぬ母
吾子の手の指を没しぬ春の土