和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

無学の責め前より寒気うしろより

停車場の鳥瞰に小さき小さき林檎

ラグビーと乳牛斑の身風にそろへ

行くほどに枯野の坂の身高まる

衆目を蹴つて脱兎や枯野弾む

天餌足りて胸づくろひの寒雀

冬の蠅ちりあそぶごと吾子の詩句

隣人の戸の音越しに降誕祭

蔓のからみし迹ふかき杖降誕祭

降誕祭睫毛は母の胸こする

旅の吾子実だけを摘んで藪柑子

噛む林檎紅白一体亡き友よ

寒星や神の算盤ただひそか

一輪踏まれて大地の紋章たり

林檎のそば涙に洗はれきつた顔

蠅生れて平らなるものを好み這ふ

学と詩と背骨二本の凍み易く

翡翠の一毛だにも吹き立たず

旅人は闊歩するなし豆の花

日蝕や花期やや近き沙羅双樹

白百合や銀の秤が吾子の手に

花茨白花は楽の通ひ易く

花紫雲英児がふたり来て声ふたいろ

昼の指一節にとまり草かげろふ

下照る夏灯車中童話を読む声あり