暁の蜩不義理が三つ四つほど
葡萄食ふ一語一語の如くにて
ビラの文字車中秋暑をなぐさめず
南瓜の山そこへ女の香をのがる
仔牛独り反芻みながら居汗して
灯蛾に語る夜々鉄橋を越えて来て
宵月を蛍袋の花で指す
母が仔猫我を仰ぎて日が眩し
栗三年柿八年いま母に茂る
遠足率て行く世の見るまじき見せまじと
かはほりや夕されば希望獲る奇癖
号令の無き世柘榴のただ裂けて
教師は負ひ生徒は対ふ秋の風
いとどしき朱や折れたる曼珠沙華
二列の曼珠沙華路行方知らず
秋白く石を打切る石煙
栗たわわ鴎外の墓花絶つて
曼珠沙華悲しみこそは醒めきつて
いつまでも若き林の愚かな秋
牛のそば小松が程の秋の影
雲の一糸も無く白日や秋の声
雀の頭蠅の眼秋の小豆色
日々の糧おほむね黄なり夜々の月
桐一葉影が来かけて人往にぬ
桐一葉板の間住みに拾ひ来て