和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

暁の不義理が三つ四つほど

葡萄食ふ一語一語の如くにて

ビラの文字車中秋暑をなぐさめず

南瓜の山そこへ女の香をのがる

仔牛独り反芻みながら居汗して

灯蛾に語る夜々鉄橋を越えて来て

宵月を蛍袋の花で指す

母が仔猫我を仰ぎて日が眩し

栗三年柿八年いま母に茂る

遠足率て行く世の見るまじき見せまじと

かはほりや夕されば希望獲る奇癖

号令の無き世柘榴のただ裂けて

教師は負ひ生徒は対ふ秋の風

いとどしき朱や折れたる曼珠沙華

二列の曼珠沙華路行方知らず

秋白く石を打切る石煙

栗たわわ鴎外の墓花絶つて

曼珠沙華悲しみこそは醒めきつて

いつまでも若き林の愚かな

牛のそば小松が程の秋の影

雲の一糸も無く白日や秋の声

雀の頭蠅の眼秋の小豆色

日々の糧おほむね黄なり夜々の

桐一葉影が来かけて人往にぬ

桐一葉板の間住みに拾ひ来て