和歌と俳句

蝙蝠 蚊食鳥

蝙蝠や星の鼠鳴中の橋 言水

蝙蝠や宇治の晒にうす曇り 其角

蝙蝠の物書ちらす羽色哉 其角

かはほりのかくれ住みけり破れ傘 蕪村

蝙蝠や千木みえわかる闇の空 太祇

かはほりや絵の間みめぐる人の上 太祇

かはほりや古き軒端の釣しのぶ 暁台

かはほりやさらば汝と両国へ 一茶


蝙蝠や賊の酒呑む古館 漱石

蝙蝠に近し小鍛冶が鎚の音 漱石

すたれゆく町や蝙蝠人に飛ぶ 虚子

晶子
夕風や 煤のやうなる 生ものの かはほり飛べる 東大寺かな

晶子
夕されば 浜の出島の うたひめの 島田にまじり かはほりぞ飛ぶ

雪よけの長き廂や蚊喰鳥 放哉

蝙蝠の宵々毎や薄き粥 漱石

蝙蝠や飼はれてちちと鳴きにけり 鬼城

山寺や蝙蝠出づる縁の下 鬼城

蝙蝠や三十六坊飯の鐘 鬼城

蝙蝠や並んで打てる投網打ち 鬼城

蝙蝠や飼はれて育つ烏鼠の間 鬼城

蝙蝠の二つゐて飛べり浜の月 石鼎

蝙蝠や草に埋るる寺の塀 石鼎

金を錬る竃も古りて蚊食鳥 龍之介

蝙蝠に一つ火くらし羅生門 龍之介

晶子
飛び出でて 波の上より 帰り来る おじけものなる 浜のかはほり

蝙蝠や灯入りの月に人ふたり 龍之介

つけ止んで灯入りの月や蚊食鳥 龍之介

蝙蝠や遅き子に立つ門の母 虚子

大利根のたそがれ見よや蚊喰鳥 石鼎

かはほりのばたりと当る芭蕉かな 青畝

白秋
塔の端 月明らけし ひらら飛ぶ 二つ蝙蝠が 金の羽の裏

かはほりや晒布襦袢の肌ざはり 草城

かはほりの翅風受けたる額かな 草城

かはほりか夜の魔か飛べる軒端かな 草城

かはほりや仄かに居たる縁の妻 草城

淡路への終ひ蒸汽や蚊喰鳥 草城