和歌と俳句

炭 太祇

蛍火や岸にしづまる夜の水

柳みんよそに夕立あまり風

蝙蝠や千木みえわかる闇の空

みじか夜や雲引残す富士のみね

雨の日は行かれぬ橋やかきつばた

一日は物あたらしき五月雨

たけの子や己が葉分に衝のぼる

やおもひもかけず宇津の山

底見へて鵜川あさまし夜の水

八重雲に朝日のにほふ五月

手から手へわたしわづらふ蛍かな

若竹や数もなき葉の露の数

ゆふだちの月に成ぬる鵜川かな

今朝みれば夜の歩みやかたつむり

やほりつ ゝ行けばぬいた道

早乙女の下りたつあのたこの田哉

旅びとや曽我の里とふ五月雨

みじかよや旅寐のまくら投わたし

古き代を紋に問るゝのぼりかな

塩魚も庭の雫やさつきあめ

岩角や火縄すり消す苔の花

旅立を人もうらやむかな

ほとゝぎすきくや汗とる夜着の中

影高き松にのぞむや蝸牛

君めして突せられけりこゝろぶと