和歌と俳句

梅雨

降音や耳もすふ成梅の雨 芭蕉

正直に梅雨雷の一つかな 一茶

木曽川に信濃の入梅の濁り哉 子規

長靴のたけに餘るや梅雨の泥 子規

奥白川田の藻に梅雨を過すなり 碧梧桐

憲吉
梅雨ふかき小庭の草に簇りて鳳仙花のくき赤く生ひけり

梅雨気だち薪の渋ると妻が言ふ 亞浪

梅雨の海静かに岩をぬらしけり 普羅

梅雨凝つて四山暗さや軒雫 石鼎

芭蕉棕梠椎樫ぬるゝ梅雨かな 喜舟

傾きて太し梅雨の手水鉢 虚子

山見えぬ窓をしめたる梅雨かな かな女

盥の色に変りゆく鯉や梅雨の土間 風生

芭蕉一葉に銀蝿のつて梅雨入かな 石鼎

仏花すててまさご尊し梅雨明り 石鼎

梅雨に入る畳あをあをと大寺かな 風生

梅雨の森蔦からむ幹隙間より 花蓑

甕どれも底水溜めてついりかな 橙黄子

薙ぎ伏せる藺を走りゐぬ梅雨雫 花蓑

二た媼梅雨に母訪ふ最合傘 蛇笏

なかなかに足もと冷ゆる梅雨かな 蛇笏

いつか死ぬ我今見入る梅雨の星 石鼎

梅雨深し花の風雨も昨日今日 石鼎

たそがれの人通りけり梅雨の門 石鼎

垣乾しや昨日の梅雨の簑と笠 青畝

罠はねし一事たのもし梅雨の畑 青畝