蝉一つとられて暮れぬ草の庵
紫蘇の葉の影黒々と月夜かな
水の面を白らめ吹く風や合歓の昼
山百合に移りし蠅や飼葉あと
山影の落つる水辺や百合の花
谷水に垂れて白しや月の百合
朝影を吸ひて大地の旱かな
大帆張つて下に働く裸かな
まれ人に金魚尾咲いて静まりぬ
南風にほや焦したる鮓の宿
鮎鮓や二つに切りて喰ひけり
鮓押して静かに歩む畳かな
花合歓に四山曇るや鮓熟るる
鮓おすや白雨ぬらす谷の橋
日覆や見飽きし町の真昼時
眼のあたり怒涛相うつ日覆かな
外し入れて框にぬくし布日除
触れて圧す柿の大葉や布日除
簀日除を人馬潜らせ茶店かな
雨しぶき相うつ路次やなめくぢり
なめくぢに散りつくしたる雪の下
なめくぢに照り映ふ雨の若葉かな
なめくぢの落ちて静かや庭の奥
いつ失せしなめくぢに板の節をかし
日輪をめづる地球になめくぢり