蜘蛛の網の大破に棕櫚の落花かな
葉隠れに土恋ふ四葩淋しめり
大鯉の押し泳ぎけり梅雨の水
梅天や生死もわかず苫かかる
梅雨凝つて四山暗さや軒雫
どの幹にも流るる雨や蝸牛
竈冷えて蝿爽かに遊びけり
樹肌わたる蟻に早やある暮色かな
樹肌わたる蟻に早やある暮色かな
蔓高く上下す蟻や天碧落
野の起隆に月出てかなし夏の草
迅雷や葉暗く垂れて二タ大樹
懐に蚊取線香や夜店見る
こまごまと椎透く灯あり夏の月
涛声に簀戸堪へてあり鮓の桶
うろを出し金魚にひろし月の池
白金魚緋の鰓燃えて静かなる
一枝月にさし出てうすし若楓
大甕や老いて紅濃き二タ金魚
梅雨晴やさやかに枯れて散る一葉
奥の灯に無き家人等や夏の宵
むくつけき僕の涼みや栃の月
草取女笠のうちなる日焼顔
岩壁へ閉めて雨戸やほととぎす
夕近き棕櫚の落花は新しし