和歌と俳句

あやめ

枇杷黄也空ハあやめの花曇り 素堂

花あやめ一夜にかれし求馬哉 芭蕉

壁一重雨をへだてつ花あやめ 鬼貫

うへが上にさす欲もなきあやめ哉 千代女

音ばかり筧失なふあやめ哉 千代女

降らいでもぬるる名のあるあやめ哉 千代女

やさしくもあやめ咲きけり木曽の山 子規

左千夫
園を広み木立めぐらし田をつくり千うね八千うねあやめ植ゑにけり

晶子
庭下駄に水をあやぶむ花あやめ鋏にたらぬ力をわびぬ

左千夫
夕汐の満ちくるなべにあやめ咲く池の板橋水つかむとす

板橋や踏めば沈みてあやめ咲く 鬼城

茂吉
朝じめる瀬上の道をあるき来てあやめの花をかなしみにけり

濁り江や茂葉うつして花あやめ 蛇笏

つるぎ葉に花のおさるるあやめかな 龍之介

盃中花さきに咲いたはあやめかな 龍之介

乾く地にすぐの亀裂や花あやめ 石鼎

一茎の白あやめなりいさぎよき 草城

短夜の灯影更けけり白あやめ 草城

なつかしきあやめの水の行方かな 虚子

満洲の野に咲く花のねぢあやめ 虚子

花あやめ横にほどけてひらく花も 石鼎

榛名湖のふちのあやめに床机かな 虚子

おのづから水の流れや花あやめ 立子

生えてあやめの露けく咲いてる 山頭火

あやめあざやかな水をのまう 山頭火

雨ふるあやめで手がとどかない 山頭火

黄あやめと紫あやめ雨の庵 石鼎

山水のひびく紫白のあやめかな 草城

山霧や黄土と匂ひて花あやめ 不器男

對の屋はあやめの水をへだてつつ 虚子

濃紫王昭君とあるあやめ 万太郎

濃紫大淀とあるあやめ 万太郎

あやめ生ふ湖畔の馬頭観世音 青畝

やはらかな芦にあやめは咲いてをり 青畝

白あやめばかり咲きたる一ところ 万太郎

あやめ咲くことを思へり厨房に 鷹女

子と母の夕餉あやめを眸にゑがき 鷹女

風折々汀のあやめ吹き撓め 虚子

あやめ咲く野のかたむきに八ヶ嶽 蕪城

草に咲くあやめかなしく旅遠し 風生

あやめ咲く汀のみたき遠まはり 万太郎

嶺のあやめ折るや虚空に色流る 蕪城

部屋部屋にあやめを生けし客設け 杞陽

おもかげをしのぶ六日のあやめかな 万太郎

あさまだき草にあやめのこむらさき 草城

士族町池にあやめにさびれをり 杞陽

雨雲のましたあやめの色の濃さ 信子

雨雲やとがりてうすきあやめの葉 信子

足垂れてあやめの水を濁しけり 信子

あやめの辺束ねて軽き洗ひ髪 信子

髪うすく幸うすくまたあやめ咲く 信子

あやめ咲きひとりでわたる丸木橋 信子

膝の砂あやめの水に払ひけり 信子

あやめ咲きつぎをあてたる足袋をはく 信子

白き歯よあやめのそばで笑ひしは 綾子

野あやめの離れては濃く群れて淡し 秋櫻子

この町や水にこと缺くあやめ黄に 万太郎

加藤洲の藪のまぎはのあやめかな 青畝

あやめ見て沼めぐらんに道水漬 爽雨

名園のこの荒れみよとあやめかな 万太郎

白あやめ潮来の蠅が一つ付く 静塔

あやめ見る男を女見難けれ 耕衣

あやめ見る女を男見易けれ 耕衣

あやめ咲き雨読の父がよみがへる 静塔