和歌と俳句

村上鬼城

  • 新年
  • くたくたと散つてしまひぬ薔薇の花

    咲くや二三荷流す牛の糞

    赤う咲いてそらぞらしさや毒うつぎ

    炭竃の煙らで涼しうつぎ咲く

    麦刈や娘二人の女わざ

    麦刈の大きな笠に西日かな

    麦刈れば水到り田となりぬ

    麦飯に痩せもせぬらり古男

    石に植えてさつきの花の咲きにけり

    板橋や踏めば沈みてあやめ咲く

    わら家根や一八咲いて橋の下

    短夜や枕上なる小蝋燭

    短夜や梁に落ちたる大鯰

    短夜や舟してあぐる鰻縄

    家鳩や二三羽降りて明易き

    男子生れて青山青し夏の朝

    渋柿の落花する井を汲みにけり

    泥塗つて柘榴の花の取木かな

    柘榴ちつて珊瑚瑪瑙をしく庭よ

    蚕飼して夜明くる家や栗の花

    ふきかへて栗の花散る藁家かな

    十薬や石垣つづく寺二軒

    鬼灯の垣根くぐりて咲きにけり

    南瓜咲いて西日はげしき小家かな

    五月雨や起き上りたる根無草