和歌と俳句

短夜

短夜や砂土手いそぐ小提灯 子規

短夜や逢阪こゆる牛車 子規

短夜の雲をさまらずあたたらね 子規

短夜の雲もかからず信夫山 子規

短夜の闇に聳ゆる碓氷かな 虚子

短夜の山の低さや枕許 虚子

短夜の星が飛ぶなり顔の上 虚子

短夜のともし火残る御堂哉 子規

短夜や一寸のびる桐の苗 子規

短夜の足跡許りぞ残りける 子規

短夜の芭蕉は伸びて仕まひけり 漱石

短夜の夢思ひ出すひまもなし 漱石

短夜の大仏を鋳るたくみかな 碧梧桐

余命いくばくかある夜短し 子規

楽にふけて短き夜なり公使館 漱石

短夜や町を砲車の過ぐる音 碧梧桐

短夜や灯を消しに来る宿の者 虚子

晶子
くれなゐの扇に惜しき涙なりき嵯峨のみぢか夜暁寒かりし

短夜を燈明料のかすりかな 子規

短夜や夜討をかくるひまもなく 漱石


短夜の浅きがほどになく蛙ちからなくしてやみにけらしも

短夜や藺の花へだつ戸一枚 蛇笏

晶子
みじか夜や嵯蛾の大堰の山あひの軽舸に吹かるくろ髪のすそ

短夜を交す言葉もなかりけり 漱石

晶子
みじか夜の しののめ近き 大路ゆく 靴の音こそ なまめかしけれ