和歌と俳句

夏目漱石

短夜の夢思ひ出すひまもなし

仏壇に尻を向けたる団扇かな

ある画師の扇子捨てたる流かな

貧しさは紙帳ほどなる庵かな

午砲打つ地城の上や雲の峰

二里下る麓の村や雲の峰

涼しさの闇を来るなり須磨の浦

袖腕に威丈高なる かな

銭湯に客のいさかふ かな

かざすだに面はゆげなる扇子

涼しさや大釣鐘を抱て居る

夕立の湖に落ち込む勢かな

涼しさや山を登れば岩谷寺

吹井戸やぽこりぽこりと真桑瓜

涼しさや水干着たる白拍子

ゑいやつと 叩きけり書生部屋

吾老いぬとは申すまじ更衣

敷石や一丁つづく棕櫚の花

独居の帰ればむつと鳴く

尻に敷て笠忘れたる清水

据風呂の中はしたなや柿の花

祖母様の大振袖や土用干

すずしさや裏は鉦うつ光琳寺

眠らじな蚊帳に月のさす時は

国の名を知つておぢやるか時鳥