和歌と俳句

夏目漱石

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朝貌や垣根に捨てし黍のから

柳ちる紺屋の門の小川から

見上ぐれば屹として秋の空

烏瓜塀に売家の札はりたり

縄簾裏をのぞけば木槿かな

崖下に紫苑咲きけり石の間

独りわびて僧何占ふ秋の暮

痩馬の尻こそはゆし秋の蠅

鶏頭や秋田漠々家二三

秋の山南を向いて寺二つ

汽車去つて稲の波うつ畑かな

鶏頭の黄色は淋し常楽寺

杉木立中に古りたり秋の寺

尼二人梶の七葉に何を書く

聯古りて山門閉ぢぬ芋の蔓

渋柿や寺の後の芋畠

肌寒や羅漢思ひ思ひに坐す

秋の空名もなき山の愈高し

曼珠沙花門前の秋風紅一点

黄檗の僧今やなし千秋寺

三方は竹緑なり秋の水

藪影や魚も動かず秋の水

山四方中を十里の稲莚

一里行けば一里吹くなり稲の風

大藪や数を尽して蜻蛉とぶ