和歌と俳句

稲妻

寂蓮
すだき来し沢の蛍は影消てたえだえ宿る宵の稲妻

式子内親王
草枕はかなく宿る露の上をたえだえみがく宵の稲妻

有家
風渡る浅茅が上の露にだに宿りも果てぬ宵の稲妻

家隆
眺むれば風吹く野辺の露にだに宿りも果てぬ稲妻の影

家隆
有明の月待つやどの袖のうへに人だのめなる宵のいなづま

定家
影宿す程なき袖の露の上に馴れても疎き宵の稲妻

いなずまを手にとる闇の紙燭哉 芭蕉

あの雲は稲妻を待つたより哉 芭蕉

稲妻にさとらぬ人の貴さよ 芭蕉

いなずまやかほのところが薄の穂 芭蕉

いなづまや闇の方行五位の声 芭蕉

いなづまやきのふは東けふは西 其角

稲妻に裾をぬらすや石の上 千代女

稲づまや浪もてゆへる秋つしま 蕪村

いな妻や秋つしまねのかゝり舟 蕪村

いな妻の一網うつやいせのうみ 蕪村

稲妻や二折三折剣沢 蕪村

いな妻や八丈かけてきくた摺 蕪村

いなずまや堅田泊りの宵の空 蕪村

いな妻や佐渡なつかしき舟便り 蕪村

いなづまや舟幽霊の呼ふ声 太祇

いなづまや雨雲わかるやみのそら 太祇

いなづまや雨月の夫婦まだ寝ず 召波

いな妻や壁を迯さる蜘のあし 几董

稲妻のおさまるかたや月の雲 几董

いなづまの衣を透す浅茅かな 白雄

いなづまやしやくりまぎるゝ宵の門 白雄

稲妻を浴せかけるや死ぎらひ 一茶

稲妻や芒がくれの五十貌 一茶

稲妻にへなへな橋を渡りけり 一茶

稲妻に並ぶやどれも五十顔 一茶

稲妻やかくれかねたる人の皺 一茶