和歌と俳句

夏目漱石

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

船出ると罵る声す深き

南九州に入つて 既に熟す

影ふたつうつる夜あらん星の井戸

樽柿の渋き昔を忘るるな

渋柿やあかの他人であるからは

萩に伏し薄に乱れ故里は

秋風や棚に上げたる古かばん

明月や無筆なれども酒は呑む

明月や御楽に御座る殿御達

真夜中は淋しかろうに御月様

明月に今年も旅で逢ひ申す

秋の暮一人旅とて嫌はるる

これ見よと云はぬ許りにが出る

月に行く漱石妻を忘れたり

長き夜を平気な人と合宿す

月さして風呂場へ出たり平家蟹

某は案山子にて候雀どの

鶏頭の陽気に秋を観ずらん

豆柿の小くとも数で勝つ気よな

北側を稲妻焼くや黒き雲

余念なくぶらさがるなり烏瓜

ある時は新酒に酔て悔多き

菊の頃なれば帰りの急がれて

晴明の頭の上や星の恋

竿になれ鉤になれ此処へおろせ