和歌と俳句

鹿

子規
後夜の鐘三笠の山に月出でて南大門前雄鹿群れて行く

神に灯をあげて戻れば鹿の声 子規

鹿聞いて淋しき奈良の宿屋哉

ともし火や鹿鳴くあとの神の杜

鹿も居らず樵夫下り来る手向山

寄りくるや豆腐の糟に奈良の鹿 漱石

山の温泉や欄に向へる鹿の面 漱石

鹿啼いて麓は奈良のともし哉 碧梧桐

祭の灯あかきに鹿の遠音かな 碧梧桐

八一
かすがののみくさ折りしきふすしかのつのさへさやにてるつくよかも

八一
うちふしてものもふ草のまくらべをあしたのしかのむれわたりつつ

村近く鹿の出て啼く端山かな 碧梧桐

昼過や鳥居の前に鹿二つ 碧梧桐

草へ出て鹿かげの如し風の月 石鼎

鹿二つ立ちて淡しや月の丘 石鼎

老鹿に僧つきつけし拳かな 石鼎

老鹿の毛ふさふさとちりもなし 石鼎

楼門の扉に老鹿は美しき 石鼎

大杉の幹を後ろに露の鹿 石鼎

こち向いて目と鼻のみや秋の鹿 石鼎

八一
かすがののよをさむみかもさをしかのまちのちまたをなきわたりゆく

八一
しかなきてかかるさびしきゆふべともしらでひともすならのまちびと

八一
しかなきてならはさびしとしるひともわがもふごとくしるといはめやも

千樫
下りきつつ薄のかげにとまりたる鹿の目見こそやさしかりしか

頂上の床几しまひや鹿夕べ 爽雨

そぼぬるる鹿になげ餌や堂やどり 爽雨

鹿を見ても恐ろしかりし昔かな 虚子

鹿と居て鹿の蠅来る日和かな 草城

欄によれば見上ぐる鹿のあり 播水

老鹿の眼のただふくむ涙かな 蛇笏

嶽々と角ふる鹿の影法師 蛇笏

横むけば靡ける角や月の鹿 石鼎

旅ごろもひつぱる鹿にあきれける 青畝

鹿苑に御仏の顔せる鹿の かな女

遠鹿にさらに遠くに鹿のをり 夜半

白秋
つれづれとつくばふ鹿のいくたむろ夕光の野にあらはにぞ見ゆ

白秋
秋の鹿群れゐ遊べど寄り寄りに立つもかがむも角無しにあはれ

城聳え空濠深く鹿の居り たかし

角あはす雄鹿かなしき道の端 多佳子