和歌と俳句

高浜虚子

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七夕や古りにし机に瓜二つ

反古裏に書集めあり星の歌

占に人よる辻や星の空

手をとつてかかする梶の広葉かな

摂待の寺賑はしや松の奥

南瓜煮てこれも佛に供へけり

田舎馬車ねぎりて乗るや稲の花

草むらや蟷螂蝶を捕へたり

蟷螂や扇をもつて打擲す

我土に天下のを作りけり

盗人が芋掘り去つて主泣く

居酒屋を出入る人に深し

秋晴や前山に絲の如き道

秋日和子規お母君来ましけり

秋風や眼中のもの皆俳句

ものいはぬ二階の客や秋の暮

淋しさにかるた取るなり秋の暮

秋の暮門行く人の話聞く

秋雨の泣く子を門に守る身かな

日もすがら田の面の鳴子鳴る日かな

むづかしき禅門でれば葛の花

秋風にふえてはへるや法師蝉

仰木越漸く多きかな

銅鑼の音のに響くや鞍馬山

清浄な月を見にけり峯の寺

杉の下に人話し居る月夜かな

此行やいざよふ月を見て終る

学寮を出て来る僧に夜霧かな

唐門の赤き壁見ゆ竹の春

秋雨にぬれては乾く障子かな

去来抄を喰ひつつ讀む夜かな

荷を投げて休む山路の野菊かな

黒谷がまづ打つ初夜や後の月

道標や夜寒の顔を集め讀む

苔青く紅葉遅しや二尊院

祇王寺に女客ある紅葉かな

柿紅葉山ふところを染めなせり

鹿の声遠まさりして哀れなり