和歌と俳句

紅葉

人毎の口に有也したもみぢ 芭蕉

このもよりかのも色こき紅葉哉 蕪村

山くれて紅葉の朱をうばひけり 蕪村

二荒や紅葉が中の朱の橋 蕪村

よらで過る藤沢寺のもみぢ哉 蕪村

むら紅葉会津商人なつかしき 蕪村

西行の夜具も出て有紅葉哉 蕪村

紅葉して寺あるさまの梢かな 蕪村

小原女の足の早さよ夕もみぢ 蕪村

夕紅葉谷残虹の消かかる 一茶

日の暮れの背中淋しき紅葉哉 一茶

小男鹿の水鼻ぬぐふ紅葉哉 一茶

良寛
白つゆはことにおかぬをいかなればうすく濃く染む山のもみぢば

一葉
嬉しくもひとりおくれて見つるかな夕日に匂ふ山のもみぢ葉

一葉
あらし山ふもとの寺のかねの音に暮るる紅葉のかげぞさびしき

子規
見渡せば 雪かとまがふ 白絲の 瀧のたえまは 紅葉なりけり

千山の紅葉一すぢの流れ哉 子規

両岸の紅葉に下す筏かな 子規

神殿の御格子おろすもみぢ哉 子規

煙たつ軒にふすぼるもみぢ哉 子規

弁当を鹿にやつたるもみぢ哉 子規

古寺に灯のともりたる紅葉哉 子規

家やいづこ夕山紅葉人帰る 子規

山に倚つて家まばらなりむら紅葉 子規

紅葉をば禁裏へ参る琵琶法師 漱石

宿かりて宮司が庭の紅葉かな 漱石

山の雨案内の恨む紅葉かな 漱石

瀑五段一段毎の紅葉かな 漱石

神垣や紅葉を翳す巫女の袖 漱石

左千夫
もみぢ葉のいてりあかるき谷かげの岩間どよもし水おちたぎつ

左千夫
もみぢばの八重てるの岩秀なるみさきのへよりたきほどばしる

左千夫
滝つぼの岩間たひろみ青淀にもみぢ葉ちりてうづまき流る

左千夫
青空にいかよふ山の中つへに緋の雲たてり千重のもみぢ葉

左千夫
黄金花名古屋の城の長畝の櫨の林は紅葉しにけり

苔青く紅葉遅しや二尊院 虚子

祇王寺に女客ある紅葉かな 虚子

城山の蹴落しの谷や夕紅葉 碧梧桐

醍醐辺川水を照る紅葉かな 碧梧桐

牛の鼻繋ぎ上げたる紅葉かな 虚子

竹青き紅葉の中の筧かな 虚子

阿賀川も紅葉も下に見ゆるなり 碧梧桐

山紅葉県の牧場通りけり 碧梧桐

檜山と峙して満山紅葉かな 碧梧桐

茂吉
山路わだ紅葉はふかく山たかくいよよ逼り来わがまなかひに

茂吉
湯のやどのよるのねむりはもみぢ葉の夢など見つつねむりけるかも

茂吉
うつそみは常なけれども山川に映ゆる紅葉をうれしみにけり

茂吉
もみぢ照りあかるき中に我が心空しくなりてしまし居りけり

茂吉
しほ原の 湯の出でどころ とめ来れば もみぢの赤き 處なりけり