和歌と俳句

伊藤左千夫

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

日まはりの花も高けど犬蓼の穂蓼の花に猶しかずけり

秋園やしをに犬たで日まり花秋津群飛び日は傾きぬ

遠つ野に雲の峰立ち猪の子かふ家のひまはり夕日照るかも

軒の端のぼけのさび枝に返り花一つ咲けるも紅の花

をの子ども三人よりあひ胡坐かきザボンの窓に物うち語る

黄金花名古屋の城の長畝の櫨の林は紅葉しにけり

夕ぎらふ勢田川の辺を吾二人石山さしてゆけりと思ほせ

かつてみし君がさ庭の山茶花を一枝たばりぬけふ炉を開く

雲による御仏といふ床わきにいつきまつらひ山茶花の花

ぬば玉の闇夜さぐりて妹許の軒の糸瓜につむり打たれぬ

我つむり打てる糸瓜ははねかへり軒の板戸をとどと叩けり

何にかにとことあげせず来るべし梅も咲きたり茶もひきてあり

冬ごもり日をなつかしみ楽焼の素焼のもひに今朝薬掛く

久方の青葉の晴を心地よみ草花買ふと亀井戸に来つ

名を問へば吾妻菊ちふ紫と白と咲たる鉢の植込

なでしこは唐に大和に咲きまじりアメリカ種もきほひてぞある

ふふみたる松葉牡丹を家づとに二鉢買ひて手にをさげこし

出入りの瀬戸川橋の両側に秋海棠は花多く持てり

朝川にうがひに立ちて水際なる秋海棠をうつくしと見し

朝顔は都の少女秋海棠はひなの少女か秋海棠吾は

打渡す墨田の河の秋の水吹くや朝風涼しかりけり

増荒夫と立てる紫苑によりなびく萩の花づま相恋ふるらし

今朝のあさ咲き盛れるは女郎花桔梗の花我毛香の花

百草のなべての上に丈高き秀蓼の花も見るべかりけり

赤羅曳く朝日かがよふ花原の園のまほらに秋津群飛ぶ