和歌と俳句

伊藤左千夫

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蓮田の枯葉にさやぐ月夜風いたく身にしむ夜深みかも

咲草の三つの蕾の一つのみ花になりたる冬深草

霜枯のまがきのもとに赤玉のかがやくなして咲く冬牡丹

二葉三葉まぐはし新葉たちそひて蕾ふくらみぬ冬深草

さきなづむ冬の牡丹の玉蕾いろみえてより六日へにけり

あかねさす庭の日なたをゑり床と植てやしなふ冬深草

一花のくれなゐ牡丹床にさせば冬の庵もさぶしくもあらず

白鳥のしろきみ鉢にうつし植て床にすえたる冬牡丹かも

こもります君なぐさむるよしもがと吾たてまつる冬深草

桑子なす実のむらなりになりたれしくはしはしばみ葉はもみぢせり

七葉八葉なほ残りたるはしばみの黄葉のさ枝見れどあかぬも

くみかへし苔筑波井の水のおもに色うつりたるはしばみ黄葉

はしばみの実もいちぢろくあらはれてきばめる木の葉ややおちつくす

色はややあかねばみたる苔の上に三葉四葉ちりぬはしばみ黄葉

片庭のはしばみもみぢおちちりて残り少なみはや冬さびぬ

花ちらふ隅田の河原の寺島を雨ふりくれて蛙鳴くなり

遠人も袖ぬれきつつ春雨の櫻の宿に茶の遊びすも

春雨に諸うなだれし八千花の花のことごと露をふふめり

一しきり渡らふ風は春雨に千垂の花の露ゆりおとす

亀井戸の もをはりと雨の日をからかささしてひとり見にこし

けならべて雨ふるなべに亀井戸の藤浪の花ちらまくをしも

長房の末にしなれば藤浪の花のむらさきあせにけるかも

池水は濁りににごり藤浪の影もうつらず雨ふりしきる

雨ふれば人も見にこず藤浪の花のながぶさいたづらに咲く

ふぢなみの花の諸房いやながく地につくばかりなりにけるかも