和歌と俳句

湖やともし火消えて月一ツ 子規

我宿にはいりさう也昇る月 子規

今日よりは何に見立ん秋の月 漱石

旅寐九年故郷の月ぞあり難き 子規

目にさわるものなし月の隅田河 子規

真帆片帆瀬戸に重なる月夜哉 子規

子を連れて犬の出あるく月夜哉 子規

松風をはなれて高し秋の月 子規

山高く月小にして人舟にあり 子規

月の根岸闇の谷中や別れ道 子規

とりかこみ月に飯くふゐろりかな 虚子

藍色の海の上なり須磨の月 子規

月上る大仏殿の足場かな 子規

月に射ん的は栴檀弦走り 漱石

廻廊の柱の影や海の月 漱石

酒なくて詩なくて月の静かさよ 漱石

雨はれて月に傘さす男かな 虚子

月東君は今頃寐てゐるか 漱石

影法師月に並んで静かなり 漱石

弟子僧にならせ給ひつ月の秋 虚子

真夜中は淋しかろうに御月様 漱石

これ見よと云はぬ許りに月が出る 漱石

鎌倉や畠の上の月一つ 子規

月出たり芙蓉の花の傍らに

公園の月や夜烏かすれ鳴く 碧梧桐

銅鑼の音の月に響くや鞍馬山 虚子

清浄な月を見にけり峯の寺 虚子

杉の下に人話し居る月夜かな 虚子

此行やいざよふ月を見て終る 虚子

月のよきに主は何で籠り居る 碧梧桐

堀止めの運河の月や通ふ汐 碧梧桐

穂芒の上飛ぶ月の狐かな 碧梧桐

大いなる月を簾に印しけり 虚子

月のみにかかる雲ありしばしほど 虚子

峻峰のいただきに月の小ささよ 虚子

暁や夢のこなたに淡き月 漱石

啄木
雨後の月 ほどよく濡れし屋根瓦の そのところどころ光るかなしさ