和歌と俳句

正岡子規

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八月や楼下に満つる汐の音

内海や二百十日の釣小舟

行く秋や奈良の小寺の鐘を撞く

行く秋や奈良の小店の古仏

行く秋の腰骨いたむ旅寐哉

行く秋や一千年の仏だち

尼寺や寂寞として秋の行く

行く秋をしぐれかけたり法隆寺

行く秋や菴の菊見る五六日

易を点じ兌の卦に到り九月尽

我庵は蚊帳に別れて冬近し

冬待つや寂然として四畳半

淋しさや盗人はやる須磨の

湖の細り細りて瀬田の秋

猿蓑の秋の季あけて読む夜哉

秋高し鳶舞ひ沈むの上

行く我にとどまる汝に秋二つ

人かへる花火のあとの暗さ哉

雨雲に入りては開く花火かな

扇捨てて手を置く膝のものうさよ

白頭の吟を書きけり捨団扇

七夕やおよそやもめの涙雨

七夕や蜘の振舞おもしろき

おろそかになりまさる世の魂祭

聖霊の写真に憑るや二三日

病んで父を思ふ心や魂祭

売れ残るもの露けしや草の市