和歌と俳句

夏目漱石

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小き馬車に積み込まれけり稲の花

夕暮の秋海棠に蝶うとし

砧うつ真夜中頃に句を得たり

踊りけり拍子をとりて月ながら

ものいはぬ案山子に鳥の近寄らず

病む頃を雁来紅に雨多し

寺借りて二十日になりぬ鶏頭花

早稲晩稲花なら見せう萩紫苑

生垣の丈かり揃へ晴るる秋

秋寒し此頃あるる海の色

菅公に梅さかざれば蘭の花

朝顔や手拭懸に這ひ上る

能もなき渋柿どもや門の内

立枯の唐黍鳴つて物憂かり

蝶来りしほらしき名の江戸菊に

塩焼や鮎に渋びたる好みあり

一株の動くや鉢の中

病妻の閨に灯ともし暮るる秋

かしこまりて憐れや秋の膝頭

長き夜や土瓶をしたむ台所

病むからに行燈の華の夜を長み

白封に訃音と書いて漸寒し

憂あり新酒の酔に托すべく

苫もりて夢こそ覚むれ荻の声

秋の日のつれなく見えし別かな