草の戸の心にそまぬ糸瓜かな 蕪村
汁菜にならでうき世をへちま哉 召波
さぼてんにどうだと下る糸瓜哉 一茶
長けれど何の糸瓜とさがりけり 漱石
玻璃瓶に糸瓜の水や二升程 漱石
容赦なく瓢を叩く糸瓜かな 漱石
糸瓜さへ仏になるぞ後るるな 子規
糸瓜咲て痰のつまりし仏かな
痰一斗糸瓜の水も間にあはず
をととひのへちまの水も取らざりき
節
秋風は吹きもわたれかゆらゆらに糸瓜の袋たれそめにけり
節
青袋へちまたれたりしかすがにそのあを袋つぎ目しらずも
節
夏引の手引の糸をくりたゝね袋にこめてたれし糸瓜か
左千夫
ぬば玉の闇夜さぐりて妹許の軒の糸瓜につむり打たれぬ
だらだらと要領を得ぬ糸瓜哉 放哉
雨に暮るる軒端の糸瓜ありやなし 龍之介
棚作り藁屋の外の糸瓜かな 碧梧桐
白秋
常よりは 月夜明るき 棕梠の葉に 糸瓜さがりて 風そよぐ見ゆ
草の宿糸瓜の水を取つてゐる 青邨
糸瓜ぶらりと地べたへとどいた 山頭火
いつもひとりでながめる糸瓜ながうなる 山頭火
誰にあげよう糸瓜の水をとります 山頭火
誰か来さうな糸瓜がぶらりと曇天 山頭火
月のへちまの水がいつぱい 山頭火
肩はりて罎見ゆ糸瓜の水取ると 青邨
たまりたる糸瓜の水に月させり 青邨
取りもせぬ糸瓜垂らして書屋かな 虚子
糸瓜忌のすぎたる糸瓜かかりけり 楸邨
引落とす糸瓜にも思ふ我家慾し 波郷
雨風の糸瓜の水も流されぬ 波郷
へちま垂る地異天変のあらざれば 鷹女
糸瓜垂れ古き女のむれに入る 鷹女
糸瓜描く安静あけの一患者 波郷
糸瓜垂れ青しといへど夕景色 双魚